
株式会社 NTTドコモ

被災地で学んだ、最後に人を救うもの

- まどか:
- 前回のインタビュー後も、FaceBookやHPでRainbowプロジェクトの活動を拝見していましたが、震災後8年が経過し、支援も変わってきたのではないでしょうか。
- 福井氏:
- そうですね。最初はそれこそなんでもやっていました。ボランティア活動やイベント運営に参加したり、テントや燃料を貸し出したり。まさにがむしゃらに、被災地でその時に必要なものをお手伝いしていました。しかし色々学んでいく中で活動が一過性ではだめだと感じ、今後にどう繋げていくか、また、ここで学んだことを他に活かせるのではないかと考えるようになりました。

- まどか:
- 東北復興新生支援室のミッションにも、東北で培ったノウハウを活かし、日本社会の課題解決につなげる、とありますね。
- 福井氏:
- 昨年は復興+dと掲げ、被災地の社会問題を解決する手段をつくり、世の中に展開していくという活動でしたが、それが将来どんなものにつながっていくか考えたときに出てきたのは“地方創生”でした。私たちにとってもっとしっくりくる言葉として、未来のふるさとをつくるために、としています。
2011年からの活動で感じたことは、コミュニティの再生が非常に重要だということです。私たちの事業であるICTだけでは人は救えません。最後に救うのは人なのです。阪神淡路大震災の時も、助かった人の7割が隣の人に救助されたといいます。互助、共助というのが肝なのです。

- まどか:
- 確かに、被災地以外の地方都市でも地域コミュニティが失われつつあることで、様々な社会問題を引き起こしていますね。
- 福井氏:
- その通りです。コミュニティがあれば、大部分の社会課題が解決できると思います。だからこそ、コミュニティの再生が鍵となるのです。そうすれば、未来にバトンタッチできる貴重な財産ができる、という意味で、未来のふるさとをつくるためにと掲げました。
その為にまず、地域コミュニティ形成段階からまちづくりに関わること。次に、三方よしの精神でICTを活かした課題解決、ビジネス創生に取り組むこと。更に、東北の現場から新しい価値を全国へ提供していくことを目標としました。

東北復興新生支援室が目指す姿

- まどか:
- 新たらしい価値を全国へ提供、とありましたが、東北復興で課題解決したことはそのまま全国でも通用するものなのでしょうか。
- 福井氏:
- 東北の被災地では、地方都市における共通的な社会課題が先行しているのです。震災により仮設住宅などに避難したことでコミュニティが一気に失われた被災地は、社会課題が凝縮し、加速しているのです。だからこそ、全国でも通用すると確信しています。
どんな時代にも社会課題はあります。100年前も、今も、これからも。今の時代便利なものは沢山ありますが、社会課題を解決できるのは、ICTではなく助け合いの心です。それをつかさどるのがコミュニティなのです。

- まどか:
- なるほど。一つひとつの課題に目を向けるより、コミュニティの再生に取り組むことで、もしかしたら様々な社会課題はおのずと解決するのかもしれませんね。
- 福井氏:
- その通りです。コミュニティ再生により、町、村で自走的に社会課題が解決されると思います。それを加速するために、時々ICT使って背中をおしていく、それが私たちの役割だと思っています。

- まどか:
- その形ができて次世代に渡せたら、おっしゃっていた未来のふるさとへつながりそうですね。CSRというとやはり、その企業の事業分野が前面に出ているのが多いと思います。けれど、被災地の現場に長く携わったからこそ「ICTで人は救えない」と言えるのですね。
- 福井氏:
- やはり、実際に現地に行って、更に人と長く関わっていたからこそ言えることです。実はコミュニティがないところには、ICTは根付かないのです。弊社が100年先まで持続するためには、コミュニティをしっかり形成する土台をつくらなければならないと思っています。人と人をつなげることで、将来の市場をつくっていくことになるのです。

リアルなコミュニティをバーチャルで可能にする“魔法の黒い板”

- 福井氏:
- 福島県では原発事故に多くの方が離散して、避難生活を送られています。そこで国の予算を借りながらタブレットを配布したのです。しかし、年配の方も多く、使い方が分からない、高価なもの使えないという意見が多かったのです。
- まどか:
- まちの人たちをつなげるには、すごく良いものですが…浸透させるためにどのようなことを行ったのでしょうか。

- 福井氏:
- いわきや郡山、仙台等で年間324回交流会を実施したのです。やはり、道具だけ渡しても人はつながりません。しかし、顔を合わせて交流し、思い出話や将来の不安など話をすることで、どうしたら離れていても話ができるの?となるので、そこでやり方を教えます。道具が先行ではなく、人と人のつながりが先にあって、それを補うために通信が役立つ
のです。70代、80代の利用者の方には“魔法の黒い板”なんて言われています。笑
- まどか:
- 本当にリアルなご近所さん同士のコミュニティが、そのままバーチャルで形成されているのですね。の黒い板という言葉が、よく表していると思います。つながりたい人がいるからこそ、通信機器が必要になり、その思いがあれば年配の方でも使いこなせてしまうのですね。

- 福井氏:
- せっかく作ったプラットフォームなので、今後は、見守り機能や防災連絡、ヘルスケア等、更なるバーチャルなコミュニティづくりもチャレンジしたいです。

人事部研修でも、被災地支援へ

- 福井氏:
- 人事部主催の選択型研修というのがあるのですが、それを被災地で実施しています。社会課題解決を現場思考で学ぶ研修です。半年の間に現地で様々な情報を入手しながら、最後は問題解決の提案をします。全国から募集をするのですが、前回は7倍の倍率の応募がありました。
- まどか:
- 7倍とは凄いですね。社員さんの意識の高さを感じます。今まで3回南三陸町で実施されていましたが、今回福島県の楢葉町になったのはどういう理由なのでしょうか。

- 福井氏:
- ようやく避難解除になったばかりで、まだまだ人が少ないのと、新しいまちづくりをしたいという声があり、今回は楢葉町で実施することになりました。社会課題は多いですから、一気にハードルは上がりますね。
- まどか:
- ただ、人がそこに行くというだけでもかなり貢献になりますよね。

- 福井氏:
- その通りです。ようやく避難解除になったばかりなので、人自体も少ないのです。研修では半年間の間、グループごとに遠隔で情報交換しながら、非常に熱心にやりとりをします。提案が近づくと、再び現地に行き、色んなものに見て触れて、まちの人と話をする。これが一番重要で、頭で考えていたものと全く違ったりするのです。そこから立て直して最終日を迎えます。
- まどか:
- とても濃い半年間なのですね。

- 福井氏:
- 研修を通して、社員が成長するのを感じます。また、今後社員の提案が実際に取り入れられ、実現出来たら嬉しいですね。
- まどか:
- 最後に今後の展開について教えて下さい。

- 福井氏:
- まず、このプロジェクトの7年のあゆみという活動をまとめた冊子を、株主総会や関係者に配るために作成しました。この7年間でハードからソフトにシフトしてきていて、コミュニティの形成なんかはまさにそうで、節目として作ったというのが一つの理由です。もう一つは、記憶がだいぶ曖昧になってきているのを、しっかり残しておくためです。
- まどか:
- 過去の7年間あゆみと、現在の被災地の復興の状況がよく伝わりますね。

- 福井氏:
- あとは、色んな企業の方にとってのCSV,CSRをいかに進めていくのか“手がかり”となるといいなと思っています。新たな協創へのきっかけになるのではないかと。
- まどか:
- 今まで、そしてこれからの東北復興新生支援室の活動に注目していきます。

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