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不確かな時代、アートは何ができるのか~現代アートの巨人・蔡國強と9万9000本の桜~

開催日:12月11日(火)19:00~20:30 イベントのカテゴリー:未分類

毎日メディアカフェのトークイベント「不確かな時代、アートは何ができるのか~現代アートの巨人・蔡國強と9万9000本の桜~」が12月11日、毎日ホールで開催されました。
 現代美術界で最も活躍しているアーティストの一人、蔡國強。彼の起伏に富み希望に満ちあふれた人生と、アートの可能性について語り合うトークイベントです。2015年に蔡國強の大規模な個展を開催した横浜美術館館長の逢坂恵理子さん、蔡と福島県いわき市の会社経営者、志賀忠重さんの友情を描いた著書「空をゆく巨人」(集英社刊)で開高健ノンフィクション賞を受賞した川内有緒さん、毎日新聞の「開かれた新聞委員会」委員で政治経済から社会問題、メディア論まで幅広く取材・論評する荻上チキさんがトークに参加しました。
 1966年に中国福建省で生まれた蔡國強は1986年に来日し、東京や福島県いわき市で創作活動を開始します。無名時代の蔡を支えたのは、志賀さんら、いわきの人々でした。その後渡米し、核やテロなど社会問題に向き合う作品で、世界で脚光を浴びるようになります。2008年の北京オリンピックでは開会式・閉会式の視覚特効芸術監督を務めて注目されました。2011年の東日本大震災で、蔡の心の故郷、いわきが被災しました。長年蔡と友情を培ってきた志賀さんは、いわきで9万9000本の桜を植えるプロジェクトを始め、蔡が「いわき回廊美術館」などで彼らを支援しています。川内さんの作品は、蔡と志賀さんら「いわきチーム」の人々との交流・協力の物語を描いています。
 イベントでは、初めに3人がそれぞれ自己紹介を兼ねて、プレゼンテーションしました。まず、逢坂恵理子さんです。逢坂さんは東京都生まれ。学習院大学文学部哲学科で芸術学を専攻。1994年から水戸芸術館現代美術センター、2007年から森美術館で学芸員として現代美術の展覧会を担当。2009年から横浜美術館館長をつとめています。
 逢坂さんは次のように話しました。
 「蔡さんは表現の自由を求めて1986年に日本に来て、1995年にアメリカに渡りました。蔡さんは火薬を爆発させて、その痕跡を絵にした作品が特徴的で、いまや現代美術界のトップクラスのアーティストです。2008年の北京オリンピック・パラリンピックで打ち上げた花火は、蔡さんのディレクションです。蔡さんは筑波大学研究生でしたが、いわきでは海で火薬を使った大きなプロジェクトを実現しました。それを支えたのが、いわきの市民でした。その時に、蔡さんは『ここの土地で作品を育てる』『ここから宇宙と対話する』『ここの人々と一緒に物語をつくる』というテーマを掲げました。宇宙と対話するというのは国境、人間の対立を超えてもっと大きな視点から考えるということです。ここの土地で作品を育てるというのは、その土地の歴史や人間の営みを作品に投影する。ここの人々と一緒に物語をつくるというのは、自分だけで作品をつくるのではなく、多くの人を巻き込んで一つのプロジェクトを完成していくということです。アートは千差万別です。美術という言葉からは多くの方は彫刻と絵を思い浮かべますが、アートというと表現範囲が広がります。現代作家は私たちと時代を共有しているのが特徴です。現代美術は分からないとよく言われますが、アーティストに作品の意図を聞くことができる。モネに何か聞こうとしても聞けません。今の時代を共有しながら、アーティストは私たちの2歩3歩先を見ながら作品をつくっています。私たちは分からないのではなく、分かろうとしないことが多いのです。どこかできっかけができれば、理解や親近感が深まると思います。蔡さんは大きな視点からものごとを見ながら、チームワークによって作品を作る。アーティストは既成の枠を乗り越え、新しい美への挑戦をしています。自分の心の中にある既成概念を解放してくれる存在が、私にとっての現代アーティストです」
 逢坂さんは続いて、横浜美術館での個展「蔡國強 帰去来」について話しました。「火薬を使える外の場所を探していたのですが、蔡さんは横浜美術館の下見で、『中でできる』と言いました。横浜美術館は丹下健三が設計した重厚な石造りの建物で、グランドギャラリーという大きな空間があります。可燃物があると無理ですが、床も壁も石で、可燃物がない。花火師の協力も得て市、県や警察、消防署から許可を得ました」
 蔡さんの作品の一つに、99匹のオオカミがガラスの壁にぶつかっていく作品「壁撞き(2006)」があります。「蔡さんは99という数字をよく使います。100だと完結してしまう。その一歩手前ということです。ガラスの壁は見えない壁で、人間は心の中にある見えない壁をなかなか乗り越えられないということを象徴した作品です。オオカミははく製ではなく、すべてぬいぐるみです」
 逢坂さんは横浜美術館での火薬爆発の記録映像を見せました。強烈な爆発のシーンでは、「ある美術館の館長さんからは『こういうのを止めるのが館長の役目ではないか』と言われました(笑い)」と振り返りました。
 次は、川内有緒さんです。川内さんは1972年、東京生まれ。日本大学芸術学部卒業後、米国ジョージタウン大学で博士号を取得。米国企業、日本のシンクタンク、仏の国連機関などに勤務後、評伝、旅行記、エッセイなどを執筆。「バウルを探して 地球の片隅に伝わる秘密の歌」(幻冬舎)で、第33回新田次郎賞を受賞。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞を受賞しました。
 川内さんは「空をゆく巨人」を書くきっかけから話し始めました。「2015年秋、福島県の面白いところを探していたら、いわき回廊美術館というのがありました。入場料無料、野外にあって、入場時間は夜明けから日没までと書いてあり、面白そうだなと思いました。運営している志賀忠重さんに電話したら、『取材はだめだ。取材されて、人が来たら困る』と言われました。実際に行ったら、歓迎してくれて、お茶を出してくれました。蔡さん、いわきチームの長い話を聞かせてもらいました。面白い、こんなことってあるのだなと思いました。いわき回廊美術館は手づくりで、蔡さんの手書きのスケッチをもとに、4カ月かけて400人がボランティアでつくりました。建造物ではなく、大きな作品です。長さが166mあります。『再生の塔』は高さ23mの大きな作品です」
 続いて、蔡さん、志賀さんの出会いを語りました。「二人の出会いは30年前に遡ります。蔡さんは無名で、誰にも見向きもされませんでした。いわきのギャラリーの藤田忠平さんという人が『個展を開きませんか』と声をかけたのが、いわきとのつながりです。藤田さんは『蔡さんは有名になるから絶対に買っておけ』と周囲の人に勧めました。志賀さんは200万円で7枚買いました。美術に興味はなく、すぐ倉庫にしまったそうです。蔡さんが志賀さんに『どうして買ってくれたのですか』と聞くと、『頼まれたからだよ』と正直に答えました。蔡さんは大らかなので、『ハハハ』と笑って友だちになったそうです」
 蔡さんは1994年いわき市立美術館で個展を開きました。「蔡さんは無茶な注文ばかりして、志賀さんが実現する方法を考えていました。二人の不思議な関係の始まりです。その一つが船です。蔡さんは船へのこだわりがすごい。船が流れ着いてしまう海岸があり、ある船を見た蔡さんが『私がほしいのはこの船です』と言いました。半分砂に埋まった船を引き上げるのは大変な作業で、志賀さんたちが苦労して引き上げました。もう一つ、無茶なプロジェクトは『地平線プロジェクト』です。沖合に5kmの導火線を浮かべて爆発させて、地球の輪郭を描く作品です。海の中で火薬を爆発させるという矛盾のあるプロジェクトです。2重のビニールの中に導火線を詰めて爆発させた。大変さと得られるものを考えると、普通はやらないですよね」
逢坂さんは「水戸市から車を飛ばして見に行きました。鳴り物入りだったし、そういう発想は日本人作家では出ない。なぜか、蔡さんを支援する輪ができる。」とコメントしました。
 「いわきからの贈り物」という船の作品があります。「もう一艘、船がほしい」と蔡さんが言って、掘り出した船です。「世界で少なくとも130万人が見たと言われ、蔡さんの作品の中でも人気のある作品です」
 川内さんはさらに「9万9000本の桜を植えるプロジェクト」について説明しました。「原発事故の後に始めました。自分が死んだ後かもしれないが、一番きれいな桜の山をつくりたいと、志賀さんは言っています。蔡さんは『日本には桜がたくさんある。今さら植えなくてもいいのではないですか』と言ったそうですが、横浜美術館の爆発で夜桜を描きました。2人は影響し合っていると思いますね」
 最後に、荻上チキさんです。荻上さんは1981年生まれ。政治経済から社会問題まで幅広く取材・論評しています。 TBSラジオ「Session-22」に出演。特定非営利活動法人「ストップいじめ!ナビ」代表理事。 著書に「ウェブ炎上」「検証 東日本大震災の流言・デマ」などがあります。
 荻上さんは「アートには詳しくない」と断ったうえで、「蔡さんはビックビジョンを掲げる。やり方はけっこうおおざっぱだが、スモールコミュニティを大切にしながら、マルチネットワークでアートをつくっていく。世の中は複雑なので、単純なストーリーを求めるのですが、単純化されたフレームをいかに壊していくかにチャレンジしている」と評しました。
 「万本桜」については、東日本大震災被災地での現状を紹介しました。「被災地では、災害のあった場所で、モニュメントやアートを復興のシンボルとしていこうという試みがあちこちで行われています。岩手県陸前高田市では『桜311ライン』が取り組まれています。津波の到達したラインに沿って桜を植える。ボランティアが桜のオーナーになる。花見をしながら震災を語り継いでいくということです。防災学で言うと、『桜ライン311』は防災のために何かするのではなく、何かした結果、防災に役立つ『結果防災』になります」
 「アートには何ができるのか」については、荻上さんはこう話しました。「アートには何ができるのかというのは、懐かしい問いだなと感じました。サルトルの時代に、『目の前の飢えた子どもの前で文学は何ができるのか』という論争がありました。災害があったときに、アーティストは最初、市民としてそこに行く。そこで得た知見で、アーティストとしてできることを考える。アートの機能は複数あり、既存の枠を壊すものもあれば、あやふやなものに型を決める再フレーム化もあります。コミュニティの人たちを巻き込んで何かをすることもできます」
 この後、3人の討議が始まりました。
 逢坂さんは「志賀さんはアーティストではないが、いかに自分を解き放していくかを考えている人。自由であることは大きなポイントです。それは難しいことです」と話しました。
 川内さんは「回廊美術館には、公的資金が入っていない。資金提供の話があっても、断っています。自由でいたいからです。また、重要なことですが、これは復興のプロジェクトではない。復興プロジェクトだからこうあるべきだという考えを押しつけられたくない、自分たちが自由に楽しみながらやっているプロジェクトだから、ということです。それに共感します」と述べました。
 荻上さんは「蔡さんのアートは万里の長城を延長するプロジェクトなど、宇宙からでも見られるようにするという壮大な考えが感じられます。桜のプロジェクトは歴史を次の世代につなぐというより、宇宙から見える広大さを求めているように思います」との見方を示しました。
 蔡さんのアートの魅力についても議論しました。
 逢坂さんは次のように話しました。「蔡さんは渡米後、社会や人間の身近なことについてメッセージを発するように変わってきました。また、動植物を使った作品をつくるようになりました。横浜では素焼きのアサガオを天井から吊す作品をつくりました。蔡さんは『吊す枝は金属ではなく自然のものであるべきだ』と言って、藤のツルにしようとした。アシスタントの人が山の中で藤ツルを見つけてきて、それを使ったら美しかった。全体の構成が素晴らしい。驚いたのは藤のツルの強さです。蔡さんは宇宙的な視点から、地球に、社会に降りてきて、自然を意識しつつ、自分が生きている以上、社会に責任があると考えている。アートを通して世の中に問いかけたいという姿勢は変わらないが、表現はすごく広がったと思います。今はカラフルな火薬絵画を制作しています。横浜で試したのは色のついた火薬絵画で、カラフルになったきっかけが横浜だったというのは、うれしいですね」
 川内さんは「地平線プロジェクトのとき、海で火薬を爆発させるのは環境破壊だという文書が街中にまかれたそうです。蔡さんは『反対する人もプロジェクトの大事なメンバーですね』とおっしゃった。これはすごい発想だと思います。そこに居合わせた人が全てメンバーになりうる。この人は好きだから必要なメンバー、この人は好きでないからメンバーではないという考え方をしない。これこそ、今の時代に必要な考え方だと思います」と話しました。
逢坂さんは「蔡さんはボランティアへの感謝を忘れない方です。ボランティアに何日も来て制作にかかわってくれた人に感謝状を作って贈呈式をしたこともあります」と付け加えました。
 荻上さんは「偶発性が重視されている印象があります。火薬の作品を見ると、これが完成なのかどうか、元々描いていた絵とマッチしているかどうかは分からない。船の作品でも切断の場所が違うとか、角度が違ったりする。その場に合わせて変えている。不確かさを、あえていいものとしていますね」と指摘しました。
 逢坂さんは「彼が火薬を使ったのは、自分のコントロールがきかない、何回やってもこれでいいというものがない。自分と向き合って、違う発見をしていくことに魅力を感じているのでしょう。武器に使われる火薬をアートに転用することによって、平和利用をするところも理由の一つだと思います」と述べました。
 続いて、「アートは何ができるのか」を議論しました。
川内さんは、蔡さんの作品『広島の黒い花火』(2008)が受け入れられた一方、アーティスト集団「Chim↑Pom」が広島市の空に飛行機雲で「ピカッ」という文字を描いて批判を受けたことの違いは何かという問題提起をしました。「原爆をイメージさせるという点では同じだったと思うのですが、市民の受け取り方は真逆でした。その違いは何だったのでしょうか」
 逢坂さんは「アートは何を私たちに与えてくれるのか。一つはイマジネーションの力、もう一つはクリエイティビティーです。『ピカッ』の言葉が広島の人たちに与える負のイメージは大きいと思います。黒い花火は鎮魂です。希望と鎮魂の花火を打ち上げますと事前にいろいろな人たちに伝えていたと思います。」と答えました。
 荻上さんは「合意形成のプロセスが全く違いますね」と指摘しました。
 逢坂さんは「いい作品は一つの答えがあるわけではなく、見る人、体験する人によってさまざまな解釈を成り立たせる多様性を与えてくれる。アートは自分の中の偏見や先入観を超えていくということにつながります。20代の私よりも今の60代の私のほうが柔らかいですよ。優れたアーティストと一緒に仕事をしたことによって得られたことは大きい」と話しました。
 荻上さんは「社会に元々ある偏見をなぞっているだけの作品、街中で人々の顔写真を勝手に撮って作品にするといった人権侵害の作品が炎上することがあります。社会の偏見や抑圧をより強化する方向になる作品は批判されます。そうではなく、こういった見方があるのか、このように描けるのかという驚きを感じさせてくれる作品に触れたい」と述べました。
 逢坂さんは「不安定な時代、インターネットによる情報の洪水の中で、確実な道筋が見えない今、自分の足で立っていかなければならない。そのときに、違う価値観を持っている人がいるということを、アートを通して知ることができる。違う価値観のある人と共生していかなければならない。アーティストの持っている多様な視点、現代美術の示すさまざまなメッセージは自分の頭を柔らかくするきっかけになると思います」とまとめました。
 最後に、3人が一言ずつメッセージを述べました。
 荻上さんは「一人のアーティストから表現や社会について考えるということで、楽しい時間でした。『空をゆく巨人』の書評を書きましたが、アートの巨人がいて、自分と異なる想像力があってという定番の話ではなく、巨人の背景にある一人ひとりの小さな出会いを丁寧に描いていて、ドキュメンタリーとして力のある作品だと思います。本を読んで、不確かを許容できる表現をどう社会に埋め込むのかを考えてほしい」と呼びかけました。
 川内さんは「二人の男がどう人生の大冒険をしていくかという物語です。現代美術が分からなくても問題なく読めますし、現代美術に興味が持てる話だと思いますので、読んでいただけるとうれしいです」と話しました。
逢坂さんは「蔡さんと出会って2年あまりで、よく本にまとめられたなと思います。よく取材して、言葉を引き出して、蔡國強と志賀さんが創り出すクリエイティブな世界を説得力ある文章でまとめています。私はアーティストの仕事を展覧会を通じて伝える役割ですが、川内さん仕事は本でアートの素晴らしさ、アーティストの存在意義を柔らかく伝えてくださっていると思います」と述べました。



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